ドラムを出て5日が過ぎた。

アラバスタへ向かう船の中、おれはキッチンでレディー達の為にお茶を用意していた。





「サンジー、何か飲み物あるかー?」





ガチャリと扉を開けてちゃんが顔を覗かせた。

最近、彼女は夜の見張り番を率先してやっているからついさっきまで寝ていたようだ。

まだ眠そうな目をこすりながら椅子に腰を落とす。





「ちょうどお茶を淹れていた所だよ。」

「さんきゅ!」





お茶を差し出すと、ふわりと笑ってカップに口をつけた。

ゴクゴクと喉を鳴らすちゃんは半分だけ残すと





「プハー!生き返る!!」





まるで風呂上りにビールを飲んだオヤジの様な発言をして口を手で拭った。

おれはその姿に思わず噴き出す。

何故笑われているのかわからないちゃんは小首を傾げる。

こうしていると、彼女の体が猛毒に蝕まれていることなんて忘れてしまいそうだ。





「今日も外が賑やかだな。」





外に耳を傾けるちゃんにつられておれも耳を澄ますと、

いつも通りのルフィ達の笑い声と共に何故か拍手も聞こえてきた。





「誰か来てるのかな?」

「かもしれねェな。ちゃんは行かないのかい?」

「…うん、今日は遠慮しておく。

 ちょっと体がだるいんだ。」

「…………。」





そう言いながら体を机に預け、腕を枕にして頭を乗せた。

おれは向かいに座りながら、少し前の事を思い出す。

チョッパーの歓迎会の最後にちゃんは仲間達に自分の死期を告げた。

理由を問う仲間達に向かって彼女は言う。





「むかしむかしある所にという女がいて、

 戦いの途中で猛毒を吸ってしまいましたが運よく生きのびました。

 めでたしめでたし。

「「「「めでたくねェよっ!!!!!」」」」





ちゃんは笑っていたけど、それ以上は言わなかった。

…言えなかった、と言った方が正しいのかもしれない。





「詳しい事はサンジに聞いてくれよ。

 おれの話でめでたい夜を曇らせたくねぇからさ。」





そう言う彼女の顔は笑っている筈なのにとても辛そうで。

今もおれの心に焼き付いて離れない。

目の前で再び眠りに落ちそうな彼女を見ながら少し胸が苦しくなった。

おれは煙草に手を伸ばすが やめた。

煙草を再びポケットへしまうと、突然ちゃんが笑った。





「…サンジ、俺のことは気にしなくても大丈夫だぞ?

 煙草吸えよ。」

「…!!」





おれが驚いていると、ちゃんは顔をおれに向けた。













「それに…サンジの煙草の匂いは何故か落ち着くんだ。」













照れくさそうに笑ってみせた。





君は ズルイ。

そんな顔でそんな言葉を紡ぐなんて。





おれは高鳴る心臓の音を聞きながらフッと笑う。





「…では、お言葉に甘えて。」





煙草に火を付け、煙を吸って天井に煙を吐く。

ちゃんはそっと目を閉じ





「…やっぱり落ち着く……。」





呟いてテーブルの上にのせていたおれの指をきゅっと握った。

おれの心臓が飛び跳ねる。

鼓動が速くなった事がバレやしないかとヒヤヒヤしたよ。

ちゃんはうっすらと目を開け、







「…落ち着くなぁ……。

 サンジの匂いと…皆の笑い声……。

 もう少し…お前らと一緒にいたいなぁ…。」







ぽつり呟き、再び目を閉じたかと思った次の瞬間には寝息が聞こえた。

あぁ、そうか。

君が夜の見張りをして昼間に寝るのは仲間達の声を聞きながら眠りたいからなんだね。

そしてもうすぐやってくる大きな戦いに備えるため…。



おれは空いている手で頬杖をつき、眠るちゃんを見つめ呟く。









「ずっと一緒さ…。

 おれも、あいつ等も……。」









彼女から伝わる温もりが言葉に言い表せないくらい愛しかった。
























































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