サンジの足を引きずりながらナミとビビが城門を出ると

チョッパーが何かを叫んでいる所だった。

足を止め、チョッパーに視線を向ける2人を

サンジの後ろを歩いていたが不思議に思い、城門を出て2人の視線の先を見る。





「だっておれは…トナカイだ!

 角だって…蹄だってあるし……青っ鼻だし………っ!!!」






その言葉だけで、チョッパーの傷をドクトリーヌから聞いていたナミと

夢で彼の過去を見てしまったは全てを悟った。



青っ鼻を理由に生まれた時から独りだった。

“ヒトヒトの実”を食べてしまい、人間の輪にも入ろうとしたが

再び青っ鼻を気味悪がれ、また独り。

やっと出会えた唯一の仲間…父親的存在の人間はもうこの世にいない。

彼の背負っているモノは、ここにいる全員に引けを取らず 重い。

ヒートアップする想いに比例してチョッパーの叫び声もまた大きくなっていった。





「そりゃ…海賊にはなりたいけどさ…!

 おれは人間の仲間でもないんだぞ!?

 バケモノだし…おれなんか、お前らの仲間にはなれねェよ!!!」





だからお礼を言いにきた、と涙を流しながら言うチョッパーから

誰一人として目を逸らすことはない。

チョッパーは自分の視線を少し下げて礼を言う。





「おれはここに残るけど、いつかまたさ…

 気が向いたらここへ…。」

「うるせェ!!いこう!!!!!」

「!」





目の前で両拳を空へ向かって突き出し胸を張って叫ぶルフィによって

自分の言葉を遮られ、放たれた言葉は、孤独なトナカイの胸にどう響いたのか。

どれだけ大きな響きかはわからないが少し間をおいて彼が放ったOKの返事は

今まで聞いた彼の声の中で一番大きな叫び声だった。











□■□











「所で、何でお前はまだ素足なんだ?」

「何でって…俺の靴、ここのふもとに埋もれてるし。

 でもルフィも脱いでた筈なんだけどなー…今履いてるけど!







チョッパーがドクトリーヌに別れのあいさつをしに行っている間に

ルフィとウソップは下山に備えてロープーウェイの準備をしに行った。

ウソップが残していった芸術品の様な雪だるまの上で

足を投げ出して座るにゾロが問いを投げかけた。

その問いを答え、ルフィ七不思議の一つを口にし、あははと笑う。

見張り台で泣きながら眠っていた彼女を少し心配していたが

いつもと変わらず笑うを見てゾロは安堵の息を漏らす。

そんなゾロに気付くことはなく。

これからの事とか、の怪我の事とか簡単に話している時だった。





「何だ?城の中が騒がしいぞ。」





ゾロの言葉に耳を傾けると、確かにギャーギャーと叫び声が聞こえる。

ナミは両手を腰に添え





「まったくヤボなんだから…。

 人の別れの夜にどうして静かにしててあげられないのかしら?」

「ははっ!でも別れは賑やかな方が俺は好きだけどな!」





呆れたように言うナミに笑って答える

「そんなもん?」と聞き返すナミには首を縦に振り「多分。」と付け足した。

仲間達が城を見ていると城門に影が見えた。

ドドドドドっという足音と共に走ってくるその影は

先程の小さいトナカイでもなく、よく図鑑で見るトナカイの姿。

細い足なのに凄い脚力だな、とのんびり思ったの視界は

チョッパーの後ろに人影を捕らえた。

慌てる彼の様子からして、どうやら追われているようだ。

何故このような状況になったのかわからない4人の元へ、ルフィとウソップが戻ってきた。





「おーい!ロープーウェイ出す用意が…。」

「ん?」

「みんな そりに乗って!!山を下りるぞォ!!!」

「待ちなァ!!!!!」

「「「「「「んな!何ィ〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!!!??」」」」」」






チョッパーの後ろに続く鬼の形相をして包丁を

何十本も投げ飛ばしてくるドクトリーヌ
を見て慌ててそりへ乗り込む。





「あんなに沢山の包丁をどこに隠しもってるんだ!?」

「何のんきな事言ってんだコラ!!」

「うわぁ!?ちょ、ゾロ!自分で乗るって!!!」





腕を組み、仁王立ちでチョッパーが来るのを待っていた

突っ込みを入れながらゾロはひょいと彼女を左肩に担ぐ。

ゾロの行動と、突然体が大地から離れたことに驚きながらも叫ぶが

その言葉と同時にゾロはタイミング良くジャンプし、そりに飛び乗った。

それに続く他の仲間達。

サンジはナミとビビが引っ張ってのせ、続いてウソップが何とか飛び乗る。





「ルフィー!手を伸ばせーー!!!」

「おぉーーーー!!!」





ウソップの声に返事をしながら腕を伸ばし、彼らの手が固く結ばれた時

そりは空を舞った。





大きく、光輝く満月にくっきりと浮かぶシルエット。

トナカイのそりに乗り、映った影はいつものドクトリーヌではなく。

乗り遅れウソップと握られた手を命綱にして宙を舞うルフィと、それに視線を向ける仲間達。

トナカイが足場とするロープーウェイの綱は月明かりでわからない。



きっと「空を飛んでいるようだった」と語る者もいるのだろう。





「Dr.くれはのトナカイだった…!」

「かけおりてきて走り去ったぞ!?」

「そりに乗っていたのはあの海賊達だ…。」

「上で何があったというんだ!!?」





町のロープーウェイの発着所でドルトンの帰りを待っていた村人が

動揺を隠すことなく口々に言う。

そんな彼らを残し、そりはゴーイングメリー号へ止まることなく走る。

そりの上の海賊達は怖かっただの、もう一回やれだの、ゾロいい加減下ろせ!だの

出港するのよバカ!!だの…思い思いに口にする。

ついでに言うと、白目を剥いて意識を飛ばしていたサンジが起きたのもこの時だ。

そんな賑やかなそりも、鳴り響く砲撃音で止まった。

反射的に空を見上げた麦わら海賊団。



その瞬間、村人も、ラパーンも…ドラム王国全ての生物が

明るく照らされた空を見上げた。







『いいか!この赤い塵はただの塵じゃねェ!!』







の脳裏にまるで必然の様に蘇る 記憶のかけら。









『コイツは大気中で白い雪に付着して…そりゃもう鮮やかな…』





















『――――― ピンク色の雪を降らせるのさ!!!』
























「すげェ……。」







ふわり舞うピンク色の雪。

雪雲は島程の範囲に渡りピンク色に染まり

大地から出たドラムロックにそっとかぶさる。



















「ヒルルクの…桜……。」

















ポツリ呟くの前でトナカイが声を上げて泣いている。























――――― 行っといで バカ息子…





















暖かな父と母の声が聴こえた気がした。




















































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