そこでの俺は木であったり、雪であったり…時には人だった。

見ていたものは青っ鼻トナカイとヤブ医者の感動物語。

ヤブ医者が言った言葉。





『人はいつ死ぬと思う?』

















『人に忘れられた時さ!!』

















その言葉は俺の心の奥深くまで染み込んだ。

















目が覚めると、やはり俺は俺だった。



















自然と流れていた涙を擦りながらムクリと体を起こす。

そこは暖かい布団の中で。

思考が追い付かず辺りを見渡すと石造りの床や壁に、本棚が2〜3個並んでいた。

足元側のベッドの横には丸いテーブルと葉っぱの様なデザインの椅子。

…おしゃれな部屋だ。

そう思った時。





「ヒーッヒッヒッヒッヒッ!!

 血だらけ娘、ハッピーかい!?」





声のする方に顔を向けると、入口前に桜の絵がドーンと描かれた半袖ラグランと

左足だけゼブラ柄の様なデザインの黒いパンツを履いた金髪のバァ様が立っていた。

見たことある様な、ない様な…。





「……アンタ、すげぇオシャレだけど…誰?」

「ヒーッヒッヒッヒッ!!

 他の奴らと違って上手い事言うじゃないか!

 あたしゃ“Dr.くれは”…医者さ!

 『ドクトリーヌ』と呼びな!!」

「Dr.くれは…医者…。

 ってことは、ここは城の中か!?

 なぁ!俺の他に3人居た筈だよな!?あいつらは…ヘブッ!!?

年寄りの胸倉掴むたぁいい度胸してんじゃないか!!!!

 …安心しな、とっくに全員起きて隣にいるよ。」





いってぇ〜〜〜!!!

ドルトンさんが言うにはもう140近いバァ様だよな!?

めっちゃ元気じゃねーか!

でも、まぁそれよりも…





「他の奴ら、手当してくれたんだな!ありがとう!!」





そう言って笑うと、ドクトリーヌもヒッヒッと言いながら笑った。

へへ!あいつらが起きたんなら俺も行かねぇとな!!

ナミの元気な姿見ないと死んでも死にきれねぇ!

そう思いながら少し興奮気味に布団を勢いよくめくってベッドから降りようとした時、





「――――― っっっ!!!!」





左肩と右足に激痛が走った。

あまりの痛さにそのまま布団へうつ伏せで倒れ込んだ。





「痛ぇ…!」

「右足にヒビ、左肩に穴開いてたんだ。

 いくら治療したからといってすぐに痛みが取れるわけじゃないさ。

 わかったら大人しく寝といで。」

「………嫌だ!!」





俺は布団を握りしめながら震える手足に力を込める。

ゆっくり、少しづつ体を起しながら真っ直ぐドクトリーヌを見た。







「何の為にここへ来たと思っているんだ!

 あいつらの元気な姿見るためだ!!

 一分…一秒でも早く!!!

 だから…こんな所で寝てらんないんだ…よっっ!!!!!」







ムキになって体を起こしたものだから、言葉の最後、声を荒げちまった。

ドクトリーヌは呆れた様に一つ溜息をつき、

足元に立てかけてあった松葉杖を取り、俺に手渡した。





「まったく…あんた等はどいつもこいつもロクな奴じゃないね。」

「はは!褒め言葉としてありがたく頂いておくよ!!」





そう笑って俺は地に足を付けた。

素足にヒヤリと床の冷たさが伝わる。

そしてふと思い、俺はドクトリーヌを見つめた。





「一つ…聞きたいことがあるんだ……。」













「俺は…もう長くないんだろう?」













ドクトリーヌは少し間を置き、





「……あぁ…。」





そう、静かに答えた。



…起きてから思った事がある。



やはり俺は俺がいい。

あいつ等と一緒にいる俺がいい。

あいつ等と…バカやっている…俺がいい。

いつも言っているけれど、死ぬのが怖いわけじゃない。

ただ少し…寂しいだけ。

近い将来、この世から消えるとわかっているのであれば。







「…………悔いはない。」







そっと目を閉じて呟いた。





コツンコツンと松葉杖を鳴らして歩き出す。

今を生きる為に。

あいつ等と、少しでも長く一緒にいる為に。



俺の後ろ姿を見つめ、ドクトリーヌは一つ溜息をついた。
















































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