顔がひんやりして目を覚ますと

目の前に木の幹のような岩肌と、いつものノースリーブ姿のルフィがいた。





「…ここ…城のふもとか?」





重い体を起こしてルフィに問う。

ルフィは俺の名を小さく呟いて安堵の息をもらした。





「寝てしまったのか…すまない。」

「気にするな。それより。」

「ん?」





よく見ると顔も腕も足も…肌が露出しているところは真赤になっている。

…こんなになってまで俺達3人を運んでくれたのだと思うと胸が痛んだ。

そんなことを考えながら俺の名を呼んだルフィを見つめ、返事をすると







「おれは今からここを登る。お前はどうする?」







真っ直ぐ俺の目を見つめて問う。

普通の人間なら「えぇー!?これを登るの!?無理だよ!!!」と投げ出すだろう。

そう、普通の人間なら。







「…んなの、一緒に行くに決まってるだろ。」







生憎、俺はアマノジャクでね。

…つーか2人の元気な姿見るまでじっとしてれねぇっての!





「怪我はいいのか?」

「こんなの怪我じゃねぇよ。」





俺はハッ!っと吐き捨てるように笑って答えた。

ゆっくり立ち上がりながらコートに着いた雪を払う。

左腕と右足は少し痙攣していたけど、気にせずブーツを脱いだ。

足の感覚を確かめる様に雪の地面を何度か踏み、一息ついてルフィを真っ直ぐ見つめ













「それに…置いて行かれる方が痛てぇ。」













俺の言葉にルフィは「そうか。」と口端を上げて答えた。



登る前に俺とルフィは1つ約束をした。







「城に着くまで下…というか俺の方は絶対に見るな。

 前だけを見ろ。ナミとサンジの事だけを考えろ。」







これを言うとルフィは1つじゃなくて3つだ、って屁理屈を言うだろう

俺としてはこれで1つなのでその辺は目をつぶってほしい。



指きりを交わして、俺たちは素手で山を登り始めた。

ルフィはナミを背負っているから俺がサンジを背負うって言ったのに

彼はそれを頑なに拒否した。

その代りにはおれを支えてくれって。

あまりにも真剣な顔で言うから何も反論出来なかった。



山を登り始めて何時間経ったのだろう。

素手・素足だからルフィは岩肌で手の指先を切った。

その時「痛っ!!」と叫んでしまったが為に

口に銜えて運んでいたサンジを落としてしまった。

何とか体を反り返して首を伸ばし、服を銜えて難を凌いだ。

俺は肩でルフィの体を支えながら登っていたから

その時ルフィに顔が見られていない事に安堵していた。







俺の顔は血まみれだったから。







…もう手足に力が入らなくなってきていたんだよ。

左肩の傷からは血が再び流れ、手足は皸で傷だらけ。

でも、何がなんでも城へ行かなきゃならねぇ。

だから、力を込める時に息を止めた。

ひどい時は額を岩肌へ付けて手・足・額と力を分散して登った。

世間で言う「火事場の馬鹿力」ってやつだ。

それを使うと、息を吐く時に俺の体内の毒が活発になった。

お陰で鼻と口と…額の傷から血が出てしまったという訳さ。

ははは…。笑うしかねぇっつーの。

だからルフィと約束をした。

こうなる事は…わかってたから。









俺は、死ぬ覚悟でここへ来たのだから。









仲間の為ならこんな命いくらでもやるよ。

毒達よ…俺の体の中で、好きなだけ暴れていろよ。

でも、頼む。











もう一度だけ、あいつらの笑った顔が見たいんだ。











あいつらの笑顔が大好きなんだ。

あいつらの笑顔は今の俺の安らぎなんだ。

だから、だからさぁ!

どうか…どうかそれまでは保ってくれ!!

体内で満足出来ないなら腕も足も…全部持って行っていいから!!!

だから頼むっ!俺にあとほんの少しの力を…!!













―――――――― ギンさんっ!!!













最後の力を出し切った時、俺達は頂上へ到達した。

目の前に建つ雪の城…。





「きれいな城だ…………。」

「………………うん………。」





ルフィの言葉に遅れて相槌をうった。

そこから先は覚えていない。







「……医者……………。」







そう呟きながら、俺とルフィは意識を失った。
















































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