突然だが、ついさっきナミが倒れた。



冒頭から何言い出すんだと

心の声が聞こえてくるのは重々承知の上で言わせてもらった。

俺だって前置きぐらい言いたかったさ!

でも、事は深刻なんだ。

熱は40度を超え、下がるどころかどんどん上がっている。

汗びっしょりで苦しそうで。

それなのにアラバスタやビビ自身を心配したり、

ゾロのせいで逸れてしまった進路を戻したり。

(しかもそのまま進んでいたらでっけぇ“サイクロン”に巻き込まれていた!)

本当にすげぇ航海士だよ。

朦朧としてるであろう意識の中であんだけの事をしたんだ。

少しでも安心するように、ナミの傍にいてやりてぇ。





なのに俺は…。









「ゲホゲホ!……ガハッ…!!」









咳が止まらねぇ。

吐血も止まってくれねぇ。

最悪な事に鼻血まで出てきやがった。

呼吸もしにくいし、何より苦しい。







「…ゼェ………ゼェ……。」







肩で息をして何とか呼吸を整えながらシャワー室の壁に体重を預けた。

水で流して証拠隠滅。

それがここに来た理由。

でも、シャワーヘッドを床に置いたまま、俺は動けなくなっていた。

俺の足元は血の海だった。

今日はいつも以上に血を吐いた。



……力が入らねぇ、手の震えが止まらねぇ。









ごめん、ナミ。









そっと目を閉じた時、後から扉が開く音がした。





…お前……!?」





俺は力なく何とか顔をそちらに向ける。

ウソップだった。





「おい!どうしたってんだよ、何だよこの血!!」

「う…ウソップ、そんなにガクガク揺らさないでくれよ…。

 脳みそが揺れちまう…。」

「わ…悪ぃ!!」





俺の腕を掴んでいた手をパッと離す。

それでも眉を八の字にして俺の顔をじっと見つめる。





…、やっぱり蝋の霧で…!」

「違う。頼むから…そんな顔しないでくれ。」

「そりゃ無理な注文だ!」

「なら、ナミの所に居てやってくれよ。

 目が覚めた時、周りに知った顔があるのは嬉しいものだ。

 俺は大丈夫だから。な?」

「………。」





ヘラっと笑うとウソップは黙ってしまった。

俺はそっと目を閉じる。











「この事はいずれちゃんと話すから。」









そのまま顔を自分の足元へ向けた。









「だからナミの所へ行ってくれ。

 あいつ…今、俺より苦しいんだよ…。」









どんな気持ちで耐えているのだろう。

…ふふ、あいつの事だから「早く治さなきゃ」って所かな?

想像して思わず口元を緩ませた。

俺の言葉にじっと耳を傾けていたウソップが立ち上がる音が聞こえた。





「待ってろ、誰か呼んで…」

余計な事はしなくていい!!

 ナミの傍に居てやってくれっ!!!






ついパッと顔を上げて声を荒げた。

その気迫に押されてかウソップの体がビクっと跳ねた。

しばし見つめ合い、「…わかったよ。」と負けを認めてウソップは背中を向けた。







も…すぐに来いよ?」







背中越しの言葉。





「わかってる。」





力なく笑って答えた。

立ち去るウソップを見つめる。

ありがとな、心配してくれて。

ごめんな、心配してくれたのに。



心の中で呟きながら俺はシャワーヘッドを拾い、勢いよく出た水で血を流した。

この血の様に俺の命も流してくれればいいのに。





ふっと浮かんだ思いと共に俺の意識は薄れていった。








































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