蝋の霧のお陰で俺の発作は再発した。 咳は止まらねぇし、苦しいし…吐血がなかなか治まらない。 それでも俺の体は蝋人形へ着実に近づいていた。 しかし早ぇな。 まだ数分しか経ってないのにもう体が動かねぇ! だがその数分の間にルフィは愉快なおっさんをふっ飛ばした。 …が、オサゲちゃんの絵の具催眠術に見事にかかってしまっている。 黄色い絵の具で背中に魔方陣(?)を描かれた時は笑い転げ、 赤い魔方陣を描いた時はそこに“ゴムゴムのバズーカ”を打っていた。 しかも2回! いやー!あの空回りっぷりは面白かった!! いつもはドカーンとかドゴーンって音なのにパン!って…! ぷぷぷ…!笑い過ぎでまた吐血悪化しちゃったぜ! そして今は背中の魔方陣が緑になり、オサゲちゃんと一緒にお茶を啜っている。 「で…どうなんの?」 「な?だからお前らもポーズとっときゃよかったろ? 残念だったなぁ!」 「まだそんな悠長なことを…!」 「まぁまぁ、怒るなビビ。 俺はポーズとってて正解だったと思ってるぞ?」 「さんは体の心配をして!」 「そうよ!尋常じゃない量の血を吐いてるんだから…!」 「もう止まったって…グハッ!」 「「「止まってねーだろっ!!!」」」 あはははははは! やっぱこいつら好きだ!! そう思いながら俺は静かに目を閉じた。 ギシギシと進む蝋化は残す所は口と目だけ。 俺はそっと口を開いた。 「……また後で。」 「ーーーー!!」 誰の返事を聞くこともなく、俺は声すら出せなくなった。 暗い闇。 何も見えぬ、聞こえぬ…深い闇。 “また後で”なんて。 俺の中の毒が悪さしたんだ。 例えあいつらが助かっても、俺の目が世界を見れるかわからない。 …なのに、自然に出てしまった。 ギンさん。 私、帰るところを見つけたよ。 あなたに会うまでの家を…。 アホばっかでうるさいけど、楽しくて、暖かくて。 いつもキラキラ…眩しい。 本当に居心地がいいの。 あなたがいたら…もっといいのに。 私、あなたの元へ行くのは怖くない。 むしろ早く会いたい。 傍にいないのは…やっぱり寂しいよ。 だけど、あなたが私に分けてくれた命だから。 精一杯生きる。 あなたが好きと言ってくれた唄を…もう少しだけこっちで唄わせて? あの人達の元で……。 暗い闇に光が差した。 ゆっくりとその光は広がって。 自分は助かったのだとわかるのに時間はかからなかった。 でも、俺を包み広がる炎が昔をフラッシュバックさせるのにも 時間はかからなかった。 血に染まる村人…家族。 ―――― 助けて…。 不気味に笑うバイキング。 ―――― ミホーク、助けて…。 俺に向けて伸ばされる首輪を持った手。 ―――― ギンさん、助けて! 「うわぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」 俺はしゃがみ込んだまま愛刀の柄を握った。 無意識に出た叫び声は、一筋の涙と共に炎に飲まれた。 首輪がひどく重く感じた。 << BACK NEXT >> |