自分の過去を語り始めたちゃん。 静かに聞き入る俺達。 その過去は衝撃的なものだった。 思い出すだけでもどれだけ苦しいのだろうか? それでもちゃんは笑って話を続けた。 「あいつとの生活はサバイバルだった。 …でも、楽しかった。」 「サバイバル?」 ルフィの問に首を縦に振ると、ちゃんは遠い目をし、空を仰いだ。 「そりゃもう壮絶だったぜ…。 突然、山に連れて行かれたと思ったら 自分の分の食糧を取ってくるまで帰ってくるなとか、 海に出たかと思ったら釣りじゃなくて自分の力で倒して 食糧を獲ろだの…。 俺は何回死にかけたかもわからねぇ…。」 「「「「「………………。」」」」」 何かを悟ったような顔でサラリと告げる。 …本当、よく生きてるな。 ちゃんは「それでも」と言うと、一呼吸おいた。 「時々見せるあいつの優しさが、俺は大好きだった。」 そう言ってふわりと笑った。 …おれの心臓がドクンと跳ねた。 「正直、あいつの強さも、人となりも…尊敬してるんだ。」 目を伏せて、優しい顔でそう言うちゃんから目が離せなかった。 初めて見る顔。 ギンの事を想う時も、こんな顔をしているのだろうか? もし、俺に惚れてくれたら…おれにも……。 って!おれは何を考えているんだ!! 「で…でも!それなのになんであの名前で呼ばれるのを嫌がるのよ!?」 ナミさんがもっともな質問を投げる。 するとちゃんは真剣な顔をしてナミさんを見た。 「それは…あいつが悪いんだ。」 彼女は少し声を荒げて 「あいつが…!俺のプリンを食べたから……っ!!!」 「「「「「…………………。」」」」」 暫しの沈黙。 それを破ったのはヘボ剣士だった。 「…お前、それだけの理由であいつの所を飛び出したのかよ?」 「当たり前だろ!? そのプリンは通販でも即完売してしまう絶品プリンで、 毎日毎日チェックして…念願叶ってゲットしたプリンだったんだぞ!? 俺はスッゲー楽しみにしてたんだ!! あいつのスパルタ修行の後に食おうと思って!! 疲れた後のプリンは絶対美味いと思って!!! なのに…なのにあいつは俺のそんな思いを踏みにじったんだ!!!!」 力説するちゃんに腹を抱えてわらうルフィに呆れる他のクルー達。 俺はそんなちゃんを可愛いと思った。 ルフィの笑い声が響き渡る中、ナミさんはポンとちゃんの肩に手を置き 「あんた…本当に大バカね。」 「うん、知ってる!」 そう言ってニカっと笑って見せた。 そしてナミさんを見つめながら続ける。 「…あと、少し付け足す。 俺、あいつが嫌いだからあの名前で呼ばれるのが嫌な訳じゃない。 むしろ嫌いってわけじゃなくてムカつくだけだし。 まぁプリン食われたことが約9割占めてるけど、あいつの名前の上に 自分がいるみたいで嫌なんだ。 あいつがいないと…俺は存在する価値がないように思えて…。 あいつの名前は、でかすぎるんだ。」 そう言って少し俯く。 だが、すぐにパッと顔を上げ 「だから俺は唄で自分の存在を認めさせてやるんだ! この船で…お前達と一緒に!!」 そしてまた笑った。 俺達も笑った。 「通称“鷹の子”! “鷹の目”ミホークに剣術を仕込まれた!! いつ消えるかわからない命だが、その時までお前達と共に歩ませて欲しい!!! 改めて…よろしく!!!!!」 彼女の真っ直ぐな目に誰もが頷いた。 もうすぐ2本目の航海が終わろうとしていた。 << BACK NEXT >> |