グランド・ラインに入る前に嵐の中で進水式をした。





世界に俺の唄を残すために。





俺の誓い。

一つでも、多くの唄を残したい。

ギンさんが好きだと言ってくれた、俺の唄を…。















グランド・ラインに入ってすぐ、

俺達はラブーンと呼ばれるクジラに出会った。

幼き頃に一緒にここへやってきた海賊たちを50年待っている。

彼らの魂は、すでにこの世にはないと言うのに…。

何故だろう。

他人事のようには思えなかった。

俺にはもう、待ってくれている人も、待つべき人もいないのに。

ただただ、仲間を思って待ち続けるラブーンの想いに、

胸に何かが込み上げた。







「ゴムゴムの…生け花ァ!!」

「うそぉーーー!?!?」







いやいや、待てよキャプテン!!

なんで喧嘩始めてるんだよ!?

しかも船のメインマスト刺してんじゃねーよ!!





「引き分けだ!!」





ルフィが叫ぶ。





「おれとお前の勝負はまだついてないから

 おれ達はまた戦わなきゃならないんだ!!

 お前の仲間は死んだけど…お前はおれのライバルだ!!

 おれ達がグランド・ラインを一周したら、

 また、お前に会いにくるから。」







ラブーンの目には、涙がにじんでいた。

そして、俺の目にも。







「そしたらまた喧嘩しよう!!!」

「ブォォォオオオ!!!!!!」







敵わないな、ルフィには。

ルフィの言葉は信じたくなる強さがある。

心を動かす、力がある。

だから俺は、この船に乗ろうと思ったんだ。



ルフィはラブーンの頭に海賊団のシンボルを描き、

ナミは航海プランを、サンジさんは料理を。

ウソップはメインマストを修理し、ゾロは昼寝を始めた。

そして、俺は…。





「クロッカスさん。

 ラブーンの一緒にいた海賊団、歌とか歌ってたかい?」

「なんだ、急に。

 そうだな…“ビンクスの酒”をよく歌ってたな。」

「そうか…。」

「??」





全員が大きな“?”を頭に浮かべてこちらを見る。

俺は崖に腰を下ろしてラブーンを見る。

そしてニカっと笑い、息を吸った。



お前の仲間には敵わないかもしれないけど、

お前のために歌うよ。

一緒に歌おう。

お前の仲間に届くように。

…ギンさんに、届くように。







俺は開いた脚の間に手を置いて体を揺らす。

最初は戸惑っていたラブーンも少しずつノッてくれて。

一緒に歌ってくれて。

凄く楽しかった。





「…ラブーン、俺にはもう待つべき人も、待ってくれる人もいないんだ。

 俺の体は、ルフィ達がここに戻ってくるまでに朽ちてるかもしれない。」





一通り歌い終わって、ラブーンに言う。





「だけど、お前がここで待っていてくれると言うのなら。

 お前がまた、俺と一緒に歌ってくれると言うのなら。

 俺はまだまだ頑張れる気がするんだ。」









「また俺と…一緒に歌ってくれるか?」

「ブォォォォォオオオオオ!!!!」









俺が笑うと、ラブーンは頭をスリっと寄せてきた。

俺はラブーンの頭を撫でて。

また笑った。



ねぇギンさん。

これでいいんだよね?

私、死ぬことは怖くない。

でも、あなたの分まで生きたいと思う。

あなたの…分まで。






































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